その話題に移る前に,われわれの行動内容と,行動の予測可能性との違いをはっきりさせておこう。行動内容——どれだけの距離を移動したとか,何通の電子メールを送信したとか,電話を何回かけたとか——については,すでにベキ法則にしたがうことが明らかになっている。つまり,一部にものすごく活動的な人たちがいて,メールをたくさん打ち,遠くまで移動するのだ。それはまた,外れ値に該当する人が存在するのは当たり前だということでもある。ハサンのように何百キロも何千キロも飛びまわる人間が少数いるのは「想定内」なのである。
しかし行動の予測可能性となると,意外なことに,ベキ法則に代わってガウス分布が現れる。つまり周囲3キロ圏内に暮らしていようと,毎日車で数十キロ走ろうと,急行電車で通勤しようと,それどころか出張するのに飛行機を使おうと,どこにいるかは同程度に予測できるのである。そしてガウス分布が支配する世界では,外れ値はあってはならないものとなる。人間行動はランダムだと仮定する,ポアソンのサイコロに支配された世界では,バーストが起こらなかったのと同じことだ。あるいは身長3メートルの人たちがその辺を歩いていることなどありえないのと同じだともいえる。人はみな,いろいろな点で他人とは違っている。それでも居場所ということになると,誰しも同じくらいに予測可能になり,この傾向に逆らう人間の存在は容赦のない統計の法則によって禁止されてしまうのである。
アルバート=ラズロ・バラバシ 青木薫(監訳) 塩原通緒(訳) (2012). バースト!人間行動を支配するパターン NHK出版 pp.289-290
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