このように,ランダム性と予測とのあいだの境界は突破できるものだと考えると,ポパーの多大な権威と影響力をもってしてもなお,彼が正しいのは自明だなどとは決して言えないことに気づかなくてはならない。ポパーがなんと言おうと,社会的な系が予測不可能だという確固たる証拠はないのである。となると,未来にはふたつの可能性がある。ひとつは,新たなハイゼンベルクが登場し,新たな不確定性原理を提示して,ポパーの正しかったことを告げ,未来を見通すことはただ難しいだけでなく,根本的に不可能であることを立証するという可能性だ。
一方,もうひとつの可能性は,おもに商業上の目的に供するために,予測ツール,とりわけ個人の行動を定量化するツールが,どんどん改良されるというものだ。予測の正確性を高めるために,やがてそれらのツールの焦点は個人から,その個人の含まれる集団へと移っていく。人が規則的なパターンから外れるのは(まっすぐ家に帰らずパブに寄ったりするのは),たいてい,お仲間のせいだからである。時間的にも,これらのツールの効力範囲は分単位から時間単位へと延びるだろう。人間の行動における慣性の持続時間が短いことを考えても,それぐらいならありえる飛躍である。時間単位の予測から日単位の予測に延ばすのは容易ではないので,最初は不正確な予測しかできないだろう。数十年前の天気予報もそうだった。しかし,その予測力はいずれ向上し,いつかはわれわれの未来もかつてのような謎のままではなくなっているかもしれない。
アルバート=ラズロ・バラバシ 青木薫(監訳) 塩原通緒(訳) (2012). バースト!人間行動を支配するパターン NHK出版 pp.376
PR