そして,手段であったはずの仕事が目的に変わっていく。手段が目的化するのである。目的になった仕事は,絶対になくならない。組織の拡大とともに,このような仕事にさらに人手が追加される。これが当たり前になった人たちには,実態は見えない。また,不必要な仕事だとも考えられていない。民間から来た人間から見ると「こんなこと必要ないんじゃない」と思えるのだが,大変重要な仕事だと認識されている。ここでは,ありとあらゆるロスが発生する。人件費,コスト,時間,生産性,サービスである。民間経験者から見ると,ロスと浪費のデパート,いや総合商社である。
ここの人たちには理解できないようなのだが,このような書類の作成には必ず人間が介在する。人間はタダで仕事をしてはくれない。従って,このような書類を要求すると金額が高くなることはあっても,安くなることはない。先ほどの起案のハンコの数の多さでもおわかりかと思うが,役人の世界では「人件費はタダ」という発想で物事が行われている。そう考えなければ,これだけ無意味なところに多くの人手,工数をかける意味が理解できない。自分たちはタダで働いているわけではないのに,「人件費はタダ」であるということで行動しているのだ。どうしてこんな単純なことがわからないのだろう,といつも考え込んでしまう。とても理解ができない。
菊地達昭 (2011). キャリア妨害:ある公立大学のキャリア支援室での経験 リフレ出版 pp.21-22
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