ここの給与袋のように,極端に丁重に扱うものがあるのとは反対に極端に粗雑に扱うものもある。また,そこに何らかの理屈,根拠があればよいのだが,どうもそのようなものは全くないようなのである。単に前からやっていることを,やり続けているだけのように思える。ある日,この給与袋配達係が,源泉徴収票を持ってやってきた。給与袋とは違って,ハンコの要求はなかった。驚いたことに袋に入ってはいるが,他のスタッフの源泉徴収票と一緒に1つの袋に入っている。「おいおい,ちょっと待ってくれよ。これって健康診断結果と同様に究極の個人情報じゃないの」,「個人ごとに袋に入れて渡すべきじゃないのかね」と言ったが,「ここでは今までこうしています」と言われてしまった。前例は常に正しいと考えているのだ。
それからも「ここではこうしています」,「もうこの話についての返信はしないで下さい」ということばを何度も聞くことになる。「絶対に変えない」と同じように,誰に何と言われようと自分たちは正しいんだ,という強い意気込みを感じる言い方なのである。これを言われると何を言っても意味がないし,聞く耳を持っていない。従って,「ああ,そうなの」,「民間の感覚じゃおかしいと思うんだけどね」と言うだけに留めて,あきらめる以外になすすべはない。
菊地達昭 (2011). キャリア妨害:ある公立大学のキャリア支援室での経験 リフレ出版 pp.74-75
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