たとえば,当時すでにあった相対性理論も,公理化はできるんだけれども,絶対データから論理的に導き出せないんです。他の分野で論理実証主義的な考え方が影響を与えた社会学や心理学の運動に「行動主義」というのもあるのですが,これは人間の心理などについて,心の中は見えないから外面的に見えるものだけで議論しようという考え方です。とにかくインプットとアウトプットだけで判断するということですね。20世紀の中頃に,とりわけ心理学とか社会学のある分野では主流を占めたやり方で,そういう意味では,哲学が大きな影響を与えていたと言えるでしょう。
ただその結果,何が起きたかというと,およそ面白い研究ができなくなってしまったんです。これがいきすぎることによって,研究としての心理学が実に貧困になってしまう。それに対する反動として認知科学が出てきました。認知科学は,心のモデル化をしますが,これは,インプット・アウトプットを見ているだけでは絶対できないことなんですよ。先にモデルを作って,モデルと整合するデータがあるかは言えるけれども,データから論理的にモデルを導き出すというようなやり方はできない。
須藤靖・伊勢田哲治 (2013). 科学を語るとはどういうことか:科学者,哲学者にモノ申す 河出書房新社 pp.48-49
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