ここで少し変わった比較を試みる。アメリカでもっとも軽蔑されているものの1つは,肥満であろう。肥満に関する意識調査では,次のような結果が得られている。子どもは太りすぎのクラスメイトを愚かで,意地が悪く,醜いとみなしがちだ。親は,肥満している子どもには,そうでない兄弟姉妹に対してより,高校卒業程度の学費の援助を節約しがちになる。どんな人と結婚したいかと尋ねられれば,太った人より,詐欺師や麻薬常習者や万引き常習者のほうがまだマシだと答える人が多い。知的障害をもつ子どもが生まれてくるとわかったときよりも,生まれてくる子どもが肥満になると知った場合のほうが,妊娠中絶を望むだろうと答える親は多い。肥満した人の隣に立つと,細身の人のそばに立ったときよりも自分に魅力がないとみなされれがちだと報告する最新の研究もある。
かつてないほど肥満者が増加したアメリカでは,肥満への嫌悪感は前述のとおりすさまじい。さらに重要なことに,太った人を目にすると,私たちはどうしてもその人に何らかの性格上の欠陥を見出そうとする。そして太っているという事実は,選択の失敗を意味し,これまで誤った選択をしてきた証とみなされる。
ケント・グリーンフィールド 高橋洋(訳) (2012). <選択>の神話:自由の国アメリカの不自由 紀伊國屋書店 pp.33-34
PR