しかし,肥満は見かけほど,当人たちがきちんと向き合った選択の結果ではないとしたらどうだろう。研究によって,人間は生物学的な命令に従って食べるように「配線」されていることが示されつつある。過食は,手に入る食べ物の種類,宣伝,文化的なメッセージ,小遣いの多寡,運動ができる安全な場所の有無などの条件に影響される場合が多い。つまり食べ物に関する個人の選択は文脈に大きく依存する。要するに『ニューヨークタイムズ』紙のコメンテーターが指摘するとおり,「環境が問題」だといえる。ファストフード産業は,これらのことをよく心得ており,低所得者層地域,幹線道路の休憩所,空港のコンコースなど,脂肪が多く不健康な商品を販売するのに都合のよい環境や状況を利用することに,恐ろしく長けている。
ケント・グリーンフィールド 高橋洋(訳) (2012). <選択>の神話:自由の国アメリカの不自由 紀伊國屋書店 pp.34-35
PR