同性愛者の権利に反対する陣営は,同姓から異性へと選好を変えた者もいると主張する。人気キャスターのケイティ・クーリックが2008年の大統領選挙期間中に行った運命的なインタビューの中で,共和党の副大統領候補サラ・ペイリンは,同性愛者の親友が「私のした選択とは別の選択をした」といった。それに対して同性愛者の権利を養護する陣営は,同性愛志向が生まれつきのものだということを示す科学論文を引用する。
ということは両陣営とも,性が選択ならそれは保護されるべきではなく,選択でないのならもっと保護されてしかるべきと想定していることになる。つまり性が選択なら,LGBT[レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランスジェンダー(性転換)の頭文字を取り,まとめた呼称]は,その選択と,それによって引き起こされるすべてのできごとに対しての責任を負っていると考えている。
そうしてみると,性的な志向の生物学的な基板を調査する科学研究の成果に対して,何百万もの人々が大きな関心を寄せていることに,まったく不思議はない。セクシュアリティが選択されたものかどうかに市民の権利が依存しているというのは奇妙な話だが(うまれつきのものでなくても宗教的信念は保護される),実際にその点をめぐって論争されている。
ケント・グリーンフィールド 高橋洋(訳) (2012). <選択>の神話:自由の国アメリカの不自由 紀伊國屋書店 pp.59-60
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