人の振るまいには,不確定性原理との類似性が明らかに認められる。人は観察されているとさまざまな心理的抑制が働き,観察されていない場合とは異なる行動をとる。取引内容が開示されて精査される場合にトレーダーが異なる行動をとるのは,単に金銭上の問題からである。ポジションの透明性は,流動性の需要者と投資家にとっては有益だが,流動性の供給者にとっては有害である。流動性の供給者はポジションを長期的に保有するつもりはない。それは典型的な流動性の需要者も同じだろう。マーケットメーカーと同様,流動性の供給者は最後には市場に戻ってポジションを処分する。その際には,市場の反対側に流動性を必要としている別の投資家がいることが理想である。ほかのトレーダーが流動性の供給者のポジションを知っていれば,理論上では,こうしたポジションがすぐに市場で売られる公算が非常に大きいと推測される。ほかのトレーダーは,市場に巨額の買い持ちが積み上がっていることを知っており,こうした取引を最初に引き受ける側になりたがらないか,仮に引き受けるとしたら,価格面でさらに譲歩するように迫る。
リチャード・ブックステーバー 遠藤真美(訳) (2008). 市場リスク 暴落は必然か 日経BP社 p.373-374
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