うつ病患者で,ノルアドレナリンかセロトニンの代謝産物の濃度,またはその両方の濃度が低い人もいるが,大多数はそういうことはない。値はまちまちだが,くつかの研究から平均値を出すと,うつ病患者のわずか25パーセントでこれらの代謝産物の濃度が低下しているとするのが妥当だ。うつ病患者の中にはノルアドレナリンの代謝産物の濃度が異常に高い人も実際にいるが,うつ病患者の大多数は正常の範囲内である。一方で,うつ病に罹ったことのない患者でも,これらの代謝産物の濃度が低い人もいる。いずれにせよ,何が計測されているかが問題として重要である。というのも,尿や脳脊髄液中のノルアドレナリンやセロトニンの代謝産物は脳に由来するものは半分以下で,残りの半分は身体のさまざまな器官に由来するからだ。
エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.133-134
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