第2に,アルコールよりはるかに凶暴にインディアンに襲いかかり,ジェノサイド的な猛威を振るったのは,ヨーロッパからの伝染病である。19世紀半ばまで天然痘,麻疹,百日咳などが数度にわたって大流行し,インディアンに破滅的な打撃を与えた。伝染病の影響は時代,地域,部族によって異なる。最初に天然痘が,ヨーロッパ人の内陸進出と符節を合わせ,1781−82年に大流行した。図7が示すように,病原菌は80年に南のミシシッピ川。ミズーリ川を上流へさかのぼって北へ転じ,プレーリーで最初の死者が報告されたのは,81年10月だった。さらに南サスカチュワン川上流に達し,そこから北へ東へと向かった伝染病は,11月には南北サスカチュワン川の合流点,翌月には下流のカンバーランド・ハウスへと広がる。アシニボイン,ブラックフット,クリー族を次々と襲った天然痘は,ヨーロッパ起源の伝染病が無免疫の非ヨーロッパ人に広がった古典的な事例となった。
木村和男 (2004). 毛皮交易が創る世界:ハドソン湾からユーラシアへ 岩波書店 pp.77-78
PR