ハドソン湾会社の毛皮帝国は,ここに終焉を迎えた。それは17世紀のフランス,イギリスによる北米進出に始まり,ロシア,スペイン,アメリカ,ハワイ,中国などをも巻きこんだ,毛皮交易の時代の終結でもあった。ヨーロッパ列強による北米大陸の領土分割は,毛皮交易を重要な規定要因として,ほぼ完了していた。他方でビーヴァー,ラッコ,バファローなどの毛皮獣は,絶滅の縁に追い込まれた。白人交易者のパートナーだったインディアンも,カナダ領では1870年代のいわゆる番号条約(71年の第1条約から77年の第7条約まで)を強制されて土地を奪われ,保留地に押し込められた。白人とインディアンのパートナーシップを体現する混血民メイティも,リエルが指導した2度の蜂起を武力で鎮圧され,無権利状態に追いやられる。クリー族の族長たちは,71年4月にエドモントン・ハウスで彼らの土地がカナダに売却されたことを知らされた。インディアンにとっては,神からすべての人間に与えられたはずの土地が売却の対象になること自体が理解できなかった。
木村和男 (2004). 毛皮交易が創る世界:ハドソン湾からユーラシアへ 岩波書店 pp.216-217
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