動き回っているとき,私たちはあるものに一瞬,視線を固定すること(これは「注視」(フィクゼーション)と呼ばれる)を何度も繰り返しているが,そのあいだに跳躍眼球運動(サッカード)という動きがはさまる。注視の時間は平均およそ0.5秒。多少の幅はあるが,サッカードの時間はつねにほぼ一定で,0.1秒未満だ。これは注視するもののあいだの距離で変わることはない。距離が長ければ目も速く動く(サッカードは人体の器官が行なう動きの中でもっとも速い)。
一見ささいなこのことが重要なのは,サッカードはその動きが始まる前から計画されていることを示しているからだ。言いかえると目が動き始める前に,それがどこへ行くのかを目そのものが知っているということだ。こうした性質を持つ動きは眼球運動から核を積んだ弾道ミサイルまで,一般的に「弾道運動」と呼ばれる。
コリン・エラード 渡会圭子(訳) (2010). イマココ:渡り鳥からグーグル・アースまで,空間認知の科学 早川書房 pp.27-28
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