3つ目の仮説は,アリが歩数を数えているということだ。ウェーナーはこの「万歩計」仮説を確かめるため,アリの肢に竹馬(興味がある人のために書いておくと,材料は豚の毛)をつけて伸ばしたときと,ハサミで(!)肢を切って縮めたときとを比較した。このようにして肢の長さを変えられたアリは,巣に戻るとき予想通り距離をまちがえた。つまりこの小さな生きものは,本当に歩数を数えて家を探していたのだ。
単に歩数を数えると言っても,アリはとても知的な方法で数えている。ウェーナーは別の実験で,急な坂を上ってエサを取ってくるようアリを訓練した。そしてアリが戻ってくるときには勾配をなくして平らにした。アリがただ歩数だけを数えているなら,巣を通り越してしまうはずだ。しかしそうはならなかった。アリはきちんと高度のちがいを修正し,無事に巣に戻ってきたのだ。坂を昇るとき,アリはどのようにして距離を計算しているのだろう?ウェーナーは「これは解明されないままになっている謎だ」と言っている。
コリン・エラード 渡会圭子(訳) (2010). イマココ:渡り鳥からグーグル・アースまで,空間認知の科学 早川書房 pp.67-68
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