近代発達心理学の祖ともいえるジャン・ピアジェは,三つ山課題という実験を考案した。子供に3つの山のある風景の三次元模型を見せ,他のところから山がどのように見えるかを尋ねる。たとえば「君の正面に座っている子には,どのような物が見えているだろう?」と尋ねる。ピアジェはこの作業が,特定の発達段階に達する前の子供にはひどく困難なものであることを発見した。現実的な意味で,子供たちは自分の視点に閉じ込められているのだ。年長の子供になると大人に近づいて,他の場所からの視点を取り入れられるようになる。
私からすると,幼い子供がこの三つ山課題を「できない」ことではなく,大人にはそれが「できる」ことのほうがおどろきである。これはつまり,私たちは物理的な空間という限界から飛び出せるようになったということに他ならない。私の体はパソコンの前のこの椅子に固定されていても,私の頭の中身は廊下を通ってキッチンへ行ったり,道路へ出て海岸に行ったり,空の高いところから地上を見下ろしたりできるのだ。そしてそれぞれの視点から見える光景の中で,自分の「体」がどこにあるのか,だいたいの場所を判断することができるのだ。
コリン・エラード 渡会圭子(訳) (2010). イマココ:渡り鳥からグーグル・アースまで,空間認知の科学 早川書房 pp.132-133
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