証人たちは,国々の政府はサタンの手先であると信じている。なぜならこの世の支配者の頂点がサタンだからだ。ところが同時に,反対のことを唱える。政府はハルマゲドンが来るまでは一時的に,秩序を保つためにエホバから権限を与えられている。だから教義が対立する場合をのぞいては,全面的に政府に従順であれとする。大きな矛盾である。サタンの手先である政府の指針にそって,従順で模範的な市民になれと言うのだ。
だから証人たちは政府に逆らうデモ活動は行わない。さらにこれを拡大解釈すると,企業に対するストライキも参加してはいけないという。だから証人たちは,組合運動には参加しないため,仕事を得られないことがしばしばある。この調子だから証人たちは世の革命家を鼻で笑う。ガンジー,マンデラ,マーチン・ルーサー・キングがどう頑張ろうが,「政府に対する反抗でしょ」で片付ける。私が個人的に呆れたのはマルコムXの話である。私は彼の映画が好きだったので,その話を黒人の兄弟にした。すると彼が「そんな反抗的な人の映画を観ない方がいいよ」と軽蔑したように答える。私は言いたかった。
「だったら奴隷になれ。おまえは彼の恩恵で今自由に伝道してるんだぞ」
佐藤典雅 (2013). ドアの向こうのカルト:九歳から三五歳まで過ごしたエホバの証人の記録 河出書房新社 pp.233-234
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