もし場依存性と大域優先性が共通のメカニズムに基づいているとすれば,健常者だけでなく,臨床データでも場依存性と大域優先制は同じようなふるまいをすると考えられる。すでに述べたように,健常者では一般に大域処理が局所処理よりも優勢である。そして,その対極にあるのが自閉症患者である。Frith(1989)によれば,自閉症患者は,統合的一貫性(central coherence)が弱いという。通常,私たちは文脈のなかに入力情報を位置づけ,統合しようという傾向がある。ところが,自閉症患者はその傾向が弱く,情報は断片のまま処理する。統合的一貫性が弱いということは,Witkinらの言葉を借りれば場独立的であり,Navonらの言葉を借りれば,局所優先的だということになる。この傾向は自閉症だけでなく,知的障害のない,あるいは知的障害のほとんどない自閉症であるアスペルガー症候群にも認められる。
箱田裕司・小松左穂子 (2011). 認知の個人差の理論 日本認知心理学会(監修) 箱田裕司(編) 現代の認知心理学7 認知の個人差 北大路書房 pp.2-25
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