個人差を問題にするもう1つの大きな理由は,個人差を検討することによって,イメージに関するより洗練された理論やモデルに到達できる可能性があるからである。個人差を研究のための主要な変数としない場合,個人差によるデータの変動は平均化によって相殺するか,あるいは誤差とみなして処理するような方法がとられる。この結果得られるのは,「平均」的なイメージ処理過程に関する知見ということになる。他の認知機能と同様,イメージの特性や機能も複数の下位過程によって実現されている(Kosslyn, 1980, 1994)。したがって,もし,ある下位過程のはたらき方の違いが個人差を生じさせるのだとすると,上述のような平均化によって得られた処理過程には,この下位過程の存在が十分には反映されていないことになる。前述したように,イメージにはきわめて大きな個人差がある。つまり,個人差を生じさせるような下位過程が,イメージ処理過程全体に占めるウェイトが大きいということである。したがって,個人差を積極的に研究することで,より精巧なイメージ理論の構築も可能になると期待される(菱谷, 1984)。
菱谷晋介 (2011). イメージ能力の個人差 日本認知心理学会(監修) 箱田裕司(編) 現代の認知心理学7 認知の個人差 北大路書房 pp.52-75
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