進化の視点から人間行動を研究する進化心理学や人間行動生態学であるが,それらの分野において個人差の問題はあまり取り扱われてこなかった。その背景をBuss(2009)は2つ挙げている。
第1に,個人差を説明予測する強力な進化理論が存在しなかったことがあげられる。実際,動物行動への進化的説明を与える最適採餌理論,性淘汰理論,血縁淘汰理論,互恵的利他主義の理論といった強力な処理論と比べた時に,後述の頻度依存淘汰の理論をのぞき,個人差(個体差)を扱う理論は,少なかったといえる。
第2に,自然淘汰は適応形質について遺伝的に均質な集団を生み出すものであるという先述の原理から,逆説的に,集団内に維持されている遺伝的な変異は,適応上たいして重要な意味を持たないとするとらえ方があったためである(Tooby & Cosmides, 1990)。
平石 界 (2011). 認知の個人差の進化心理学的意味 日本認知心理学会(監修) 箱田裕司(編) 現代の認知心理学7 認知の個人差 北大路書房 pp.76-102
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