おそらく一般的な遺伝子に関する理解は,パーキンソン病の遺伝子,モノアミン酸オキシダーゼ分解酵素遺伝子などのように,個々の遺伝子がそれぞれ特定の機能を有する,いわば分解酵素遺伝子などのように,個々の遺伝子がそれぞれ特定の機能を有する,いわば固有名詞化された単位であろう。ポリジーンを構成する遺伝子も,その1つひとつはそれぞれに特定の機能を有するものである。しかしポリジーンモデルにおいては,個々の機能が何かということは考慮されず,すべてが等しくある量的形質に関与する匿名化された集合体として考える。たとえば身長という量的形質は,大腿骨の長さ,脊椎や頚椎の1つひとつの大きさや全体の並び具合など,たくさんの個別要素の総和であり,それぞれに複数の遺伝子が関与していると考えられる。もちろん実際には個々の遺伝子が身長に寄与する量的な程度も質的機能もそれぞれに異なるはずだが,モデルとしては量的な効果についてそれらを平均化して,同義性を持つと考える。ちょうどオーケストラにおけるバイオリンパートが,1人ひとりは個性を持ったバイオリニストの音でありながら,個人は匿名化され1人ひとりの音質や大きさは平均化されて,全体としての和が意味を持つのに似ている。
安藤寿康 (2011). 認知の個人差と遺伝 日本認知心理学会(監修) 箱田裕司(編) 現代の認知心理学7 認知の個人差 北大路書房 pp.103-129
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