ただし,アメリカ風にいえばイグゼンプト(exempt)クラスを対象にした。イグゼンプトとはもともとは除外という意味で,労働基準法の残業手当を払え,という規定の適用を免除する層をいう。つまり残業手当が一切つかない。大卒若手入社でも正社員ならまず最初からイグゼンプトのようだ。日本は課長クラスからようやく残業手当を払わず,ここに大きな違いがあることに注意してほしい。なお,対象時点がやや古いと思われようが,ていねいな研究を重んじるかぎり,ここ2,3年の資料はまず表にでない。もっともこうしたサラリーの構造はあまり変動しないようだが。
その論文によれば,このイグゼンプト層の査定はAからEの5段階査定で日本と変わらないが,日本と大違いなのは95%以上がBとCであることだ。他方,日本は人事部のガイドラインがあり,AからEまでたとえば10,20,40,20,10%などの分布の標準が示され,それから大きくははずれないようだ。こうした状況への誤解が日本ではつよすぎる。そのことを一瞥するために米ホワイトカラーのサラリーを簡単にみておく。
まず日本でよく誤解されるのと大違いで,仕事給では断じてない。仕事給とは電車の運転手30万円,車掌25万円など仕事に応じ査定もなく定期昇給もない方式である。上手下手への報酬がないことをよく承知していただきたい(このことを日本の人事労働の方はどうしてかあまりご存じないようだ)。
もちろん出来高で差をつける方式はある。しかしそれでは品質がもたない。日本でも品質を重視した第二次大戦後は,出来高制度は急速に姿を消していった。つまり仕事給とはおおまかにいえば,品質を気にしないでよく,上手下手の差があまりでない簡単な作業に対して払う仕組みなのである。いまの日本でいえば,多くのアルバイトやパートの方たちに支払う方式である。
日本でいえば大卒ホワイトカラーにあたる層のサラリーは,米企業でも社会資格給(pay-for-job grade)である。社内資格(job gradeあるいはpay gradeともいう)とは,まずは日本で悪名高い,かの職能資格そのものといってよい。日本企業なら社員1級,2級,3級など年功制度として非難されることのみ多かった方式である。社内資格とは他社に通用せず,その会社内のみで通用し,他方,社内では分野を通じ,あるていど仕事のレベルを反映している。そして勤続を積んだだけれは,上の社内資格には昇給しない。相当の役職に昇進しないと昇給がとまる。それは米企業でも日本企業でも変わらない。
小池和男 (2009). 日本産業社会の「神話」:経済自虐史観をただす 日本経済新聞出版社 pp.35-36
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