さまざまな薬に対する反応が人によって違うように,さまざまな治療法に対する反応も人によって違う。だがおしなべて,いちばんありふれた精神障害の患者では,非薬物療法は少なくとも薬物療法と同じくらい効き目があることが実験データから示唆されている。しかし精神療法での成功は過小評価され,揶揄されることすらあるのに,薬物療法の有効性は,さまざまに誇張されて語られることが多い。精神療法の有効性とは,せいぜいそれによって患者に薬を服用させることができるようになる程度だとよく言われるが,これはまったく不当である。先にも書いたが,患者支援団体が製薬会社の支援により,うつ病患者の90パーセントに薬が効くという広告を出したことがあった。薬の研究から得られている平均値は実際は65パーセントほどであるから,ここでも数値が水増しされていると言える。うつ病患者の約25パーセントは本当の薬ではなくプラセボを投与されても症状が改善するため,このぶんを差し引かなくてはならないのである。さまざまな治療法についての研究の行われ方,結果の評価と受けとめられ方は,薬を処方できる精神科医と処方のできない心理士やソーシャルワーカーの間の縄張り争いを反映している。これだけは,私は自信をもって言える。
エリオット・S・ヴァレンスタイン 功刀 浩(監訳)・中塚公子(訳) (2008). 精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の科学と虚構 みすず書房 pp.280
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