日本の有給休暇取得率が低い,とよくいわれる。それは企業への忠誠心,あるいは職場の仲間への気遣いなどという説明がよくみられる。だが,その理由はかなり簡単なことではないだろうか。病気休暇制度が企業に普及していないからではないか。
日本の有給休暇は,すくなくともそのかなりは,事実上西欧の病気休暇にあたる機能をはたしてきた。西欧では病気欠勤のとき,ふつう病気休暇を取得する。病気休暇とは医師の診断書を要し,年間数日の上限があるが,実際にはどのような医師の診断書が必要かによって大きく取得日数が変わる。混みあう公的病院の診断書を要求すれば,一挙に病気休暇日数は減る。
こうした実情はともかく,日本では病気休暇はあまり企業に普及していない。なるほど健康保険組合の病気欠勤保証はあるが,それは病気休暇の代替にはなるまい。というのは,人事の評価の際に考慮する出勤率にマイナスとなる点は回避できないからである。査定に出勤率を考慮する慣行は他国でもみた。したがって,なるべき病気欠勤は有給休暇で消化したい。さりとて病気はいつおこるかわからない。そこでその対策として有給休暇をのこしておかざるをえない。すなわち,病気休暇の制度をきちんと利用すれば,状況は相当に変わってくるであろう。
小池和男 (2009). 日本産業社会の「神話」:経済自虐史観をただす 日本経済新聞出版社 pp.154
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