ふたつの視点でみる。ひとつは1980年からの推移,もうひとつは国際比較である。後者からみよう。もし日本が他国と違い「終身雇用」の国ならば,当然に残存率は格段に大きいはずであろう。ところがドイツ,スイスより低い。1985−90年をとれば,その両国に加えスペインも日本を上回る。もちろんこの数値でそう断定するのは危ない。というのは,これは男女計の数値なのに,日本の終身雇用「神話」は男性にかぎられ,その反証にはかならずしもならないからである。それにしても日本より45歳以上の残存率の大きい国が複数あることに注目すべきだろう。せいぜい日本は西欧の一部の国なみの長期雇用らしい。
ほかは推移である。なるほど多くの国で残存率が下がっているのに,日本はわずかながら上がっている。おそらく高年齢化の影響とおもわれる。ただし,米でも最後には少し上がっているのだ。いずれにしても日本がやや長期雇用であるのはたしかなようだが,他国とは隔絶した雇用保険制度とはあまりいえそうにない。とくに日本の統計が企業からのデータであることを心にとめると,この表示による日本の長期雇用度はやや割り引かねばなるまい。
小池和男 (2009). 日本産業社会の「神話」:経済自虐史観をただす 日本経済新聞出版社 pp.203-204
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