長い間,無作為標本は,なかなか優れた簡便法だった。デジタル化以前の時代に大量データの分析を可能にした実績がある。しかし,デジタルの画像や楽曲のファイルサイズを小さくするために圧縮する作業と同じで,標本作成の際には情報が抜け落ちる。一方,完全(あるいはほぼ完全)なデータセットなら,もっと自由に調査できるし,別の角度からデータを眺めたり,特定部分をクローズアップしたりすることも可能だ。
このイメージに近いのが,最近発売された「ライトロ」というカメラだ。このカメラが画期的なのは,ビッグデータの考え方に基づいた写真が撮影できる点にある。
ライトロは従来のカメラのように光を1つの平面として取り込むのではなく,光照射野全体の光線を取り込む。その数,1100万本だ。取り込んだデジタルデータからどのような画像を取り出すかは,後で決めればいい。あらゆる情報をカメラに放り込むから,撮影時にピント合わせの必要がない。撮影後に好きな位置にピントを合わせられる。光照射野全体の光線が取り込まれているということは,すべてのデータが入っているということであり,まさに「N=全部」なのだ。普通の写真の場合,シャッターを切る前にどこでピントをあわせるか決めて,風景を面で切り取らなければならない。そう考えると,このライトロでは,はるかに情報の「使い回し」が利く。
∨・M=ショーンベルガー&K.クキエ 斎藤栄一郎(訳) (2013). ビッグデータの正体:情報の産業革命が世界のすべてを変える 講談社 pp.51
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