言うまでもなく,ビッグデータには数々のメリットがある。人間性抹殺の兵器になってしまうのは,欠陥があるからだ。それもビッグデータ自体の欠陥ではなく,ビッグデータによる予測結果の使い方の欠陥である。予測された行為について実行前に責任を負わせることからして大問題だが,とりわけ,相関関係に基づくビッグデータ予測を使っていながら,個人の責任については因果的な判断を下している。問題の核心はここにある。
ビッグデータは,現在や未来のリスクを把握し,それに応じて自分の行動を調整するときに威力を発揮する。その意味ではビッグデータ予測は,患者にも保険会社にも金融機関にも消費者にも役に立つ。しかし,因果関係については何一つ教えてくれない。個人に「自責の念」(過失の意識)を持たせるには,対象者が特定の行為を自ら選択していなければならない。まず本人による決断が原因としてあり,その結果として特定の行為が発生していなければならないのである。より正確に言えば,ビッグデータが相関関係を前提としている以上,因果関係を判定して個人の有責性を示す道具としては,まったくもって不適当なのである。
∨・M=ショーンベルガー&K.クキエ 斎藤栄一郎(訳) (2013). ビッグデータの正体:情報の産業革命が世界のすべてを変える 講談社 pp.243-244
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