知的能力に明らかな障害がある境界線としてIQ70を選ぶのは,根拠もないのに便利だからそうしているのにほかならず,人口のうちIQが最も低い2.5パーセントを選んでいるという以外に特別な意味はない。これらの人たちは,すぐ隣に位置するほぼ同じ人たちに対しては拒まれている特別な支援や免除を認められやすい。しかし,標準偏差ふたつぶん離れたIQ70で区切ることに,なんら尊重すべきものはない——現実世界では意味がない。状況によっては,境界線の少し上や下で区切ったほうが,いま以上に理にかなっているはずだ。もっと金をまわせるのなら,IQが70より高い人たちにも支援を提供するべきだろう。IQ70の人たちがうまくやっている場合だってある。それに,標準偏差ふたつぶんが境界線になるべきだとだれが言ったのか。ひとつぶんや3つぶんやひとつ半ぶんではだめなのか。この選択は決まって根拠に乏しく,統計ではなく状況に動かされている。
アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.45-46
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