息子が癇癪を起こすのは,成長の過程なのか,それとも双極性障害の徴候なのか。娘が学校で注意散漫なのは,注意欠陥・多動性障害なのか,それとも単に頭がよすぎるせいで授業がつまらなくて退屈しているのか。息子が幼いうちからロケットやSFに興味を持っているのは喜ぶべきなのか,それとも自閉症を心配するべきなのか。自分が経験しているのはよくある不安と悲しみなのか,それともこれは全般的不安障害なのか。人の顔や事実を思い出せなければ,アルツハイマー病の手が迫ってきているのか。悲嘆は失意のしるしであり,つらくとも有用で自然なものなのか,それとも大うつ病の病性障害なのか。自分のティーンエイジャーの娘は型にはまらない風変わりな子なのか,それとも危険な薬が必要な重い精神病の予備軍なのか。タイガー・ウッズは精神疾患をかかえているのか,それとも単なる女好きなのか。残忍なレイプ犯はただの悪人なのか,それとももしかしたら病人なのか。われわれはだれしも,精神病の軽い症状が短時間出ることがある——これはわれわれがみな,精神疾患と戯れていることを意味するのか。
アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.76
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