ギリシャ人は物事を4つに分けた。季節も4つ,人生の段階も4つ,惑星も4つだった。元素も4つ(空気,火,土,水)で,これらがさまざまに組み合わさって世界の物理現象と心身の様態を定めているとした。4つの体液(血液,黄胆汁,黒胆汁,粘液)はそれぞれ元素のひとつに対応させられた。これらの不均衡が病気をもたらすと,ヒポクラテスも書き留めている。
ガレノスはこの標準システムに加えて,パーソナリティも同じ体液の不均衡から生じるとした。血液が多すぎれば多血質(快活)に,黄胆汁が多すぎれば黄胆汁質(短気)に,黒胆汁が多すぎれば黒胆汁質(憂うつ)に,粘液が多すぎれば粘液質(無感動)になる。これらの調和のとれたバランスが,精神の正常な働きをもたらす。体液の混ざり方にはあらゆる組み合わせがあるので,人間の行動や傾向がいくら多種多様でも説明できるし,納得できる。いまならどれも「偽医者」の発言のように聞こえるが,この説は1500年以上にわたって医学を支配した。それに比べれば,現在の理論の多くは,半減期が100年単位ではなく10年単位である。
アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.90
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