診断のインフレを抑えるために打てる手はいくつかあった(そして実際に打つべきだっただろう)。何より重要な事として,DSM-IVの診断のハードルをもっと高くして(より多くの症状が,より長期にわたって現れ,より大きな機能障害を引き起こしているのを条件にするという具合に),企業が診断を商品に結びつけにくくすることはできた。しかし,われわれは公平で保守的であろうとするあまり,自縄自縛に陥った——証拠を求める厳格なルールのせいで,説得力のある詳細な科学的データがないかぎり,どちらの方向にも変更することはできなかった。われわれのルールにしたがっているかぎり,診断システムをデフレにするのはインフレにするのと同じくらいむずかしかった。根拠のない決定と,自分の縄張りを広げたがる専門家たちの本能を抑えこむために,ルールは必要な制約だった。
アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.131-132
PR