予防は至るところで誇大宣伝されている。息つく間もなく,毎日のように医学の大躍進が発表されている。新しい検査がつぎつぎに考えだされ,古い検査では異常のハードルが下げられる——それが新しい患者を大量に作り出している。医師は大事を取って,あらゆる患者にあらゆる高額な検査を受けるよう指示している。検診の利点を売りこみ,病気をほうっておいたときの恐怖をあおる宣伝がおこなわれている。
おどして検診を受けさせる戦術は,その旗振り役には巨大な経済的成功をもたらしているが,少数の例外を除けば(喫煙者に対する肺がん検診とか,すべての人に対する結腸がん検診とかを除けば),検査が患者のためにならないことが多いのは,証拠から明らかだ——結果はたいして改善されないのに,必要のない高額な治療を積極的に受けさせて,よけいな負担を強いることになっている。そしてこの無駄遣いは,社会全体で毎年数千億ドルにも達する。本物の病気にかかっているのに保険にはいっていない人たちの治療に向けるほうが,よほどましな使い道だ。予防医学は目標こそすばらしいが,利益と誇大宣伝のために産業化,奴隷化されて,道を大きく誤っている。
アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.138-139
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