だれもが病気であるなら,だれもが薬を飲まなければならないことになる。向精神薬の市場はすでに巨大だが,なおも拡大をつづけている。成人向けの市場が飽和状態を呈すると,製薬企業は子どもに製品を売りつけて消費人口を増やした——精神障害の最近の流行がみな,子どもで発生しているのは偶然ではない。それに子どもは格別の上客だ——早いうちに仲間に引き入れてしまえば,生涯にわたって虜にできる。企業はライフサイクルの反対の端にいる高齢者にも狙いを定め,老人ホームでまるでホットケーキのように抗精神病薬うぃ売りさばいている。子どもと高齢者は正確な診断が最もむずかしい人口集団であり,薬の有害な副作用に最も弱く,老人ホームで抗精神病薬を多用すれば死亡率が高まるのに,製薬企業はそういう事実に頓着していない。さらに厄介なのは,最も多くの薬を飲んでいるのが最も立場の弱い子どもたちであることだ——貧しい子どもや,里親に育てられている子どもである。
アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.162-163
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