新しい研究室で私がはじめに行ったのも,個人誤差がどのように発生するかというものでした。人によって測定値が異なり,しかも正しい測定を行う人と,たえずおかしな測定をする人とがいるというのが分かるまでには,かなりの時間を要しました。基本は,真の値が分からないところで,人は正しい値を探して,どのように測定をするかということでした。
このような人による差が,何によって発生するかというのは,あるいは人間の本質を研究する上での,根本的な問題になるかもしれないという気がするのです。当時は心理学者のすすめもあり,これを人の性格について調べてみました。現在では,性格テスト以上に,測定者の能力を調べた方が,いろいろなことが分かるような気もしています。
内向的で情緒安定型の人は,かなりの割合で測定がうまく,逆に,外向的で情緒不安定型の人には,測定の下手な人が多いということが分かりました。性格的な傾向ですから,訓練で測定がうまくなるというのは,根本的には,あまり期待できないことになります。
内向的で情緒安定型というのは,いわれた仕事は真面目にするが,自分からは外部に対して積極的には働きかけない人,いわゆる技能者に向く人のようです。このような人たちが,測定という地味な仕事を支えているということになります。
外向的で情緒不安定型というのは,経営者とか政治家,ジャーナリストなど,自分から積極的に仕事をする人の性格傾向のようです。このような人は,測定などという地味な仕事になど,かまってはいられないという人たちでしょう。
矢野宏 (1994). 誤差を科学する:どこまで測っても不正確!? 講談社 pp.153-154
PR