では具体的に,アイデンティティの達成過程は,若者の生活環境にどのように埋め込まれているのだろうか。エリクソンの様々な説明の中から最も基本的と思われる様子を拾い上げると次の3つになる。
第1に,何らかの職業につくこと。何らかの仕事に従事することを通して人は社会の中に自らの位置を確保する。それによってアイデンティティは社会的にくっきりとした輪郭を得る。
第2に,結婚と出産。かけがえのない相手との間に親密で安定した関係を築き,また,世代を超えていく関係の中に自らを位置づけることで,アイデンティティはしっかりとした支えを得る。
第3に,信念の体系あるいは世界観を獲得すること。しっかりとした世界観に帰依することによってアイデンティティは明確な方向性を得ることができる,とエリクソンは考える。
しかしながら,1980年代以降の日本の若者は,つまるところこれら3つの要素が徐々に確保されなくなっていくような社会を生きているのである。
浅野智彦 (2013). 「若者」とは誰か:アイデンティティの30年 河出書房新社 pp.19-20
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