もちろんこの華やかさが独特の残酷さを伴うものであったこともたしかだ。例えば,1980年代のギャグ漫画ブームを牽引した作家の1人,相原コージが執拗に描き出したのも,そのような残酷さであった。彼が描き出す青年は,何とかおしゃれな生活に参加しようとして,例えばおしゃれなお店におしゃれな服を買いにいくのだが,そこで客によってくる店員さん(ちなみにハウスマヌカンなどと当時呼ばれていた)のあまりのおしゃれぶりに,自分がバカにされているのではないかという劣等感や不安に打ちのめされて,必要のないものを買わされたり,あるいはそもそも店に足を踏み入れられなかったりする。このようなシーンがギャグ漫画の定番の位置を占めていたという事実が示唆しているのは,舞台の上で展開されるおしゃれな光景の背後に,あるいはその下に,舞台に上がりたくても上がれなかった多くの人々の屈折した思いが鬱積していたのではないかということだ。
浅野智彦 (2013). 「若者」とは誰か:アイデンティティの30年 河出書房新社 pp.44
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