倫理的な問題が恋愛において切実に感じられるのは,今日の日本において,恋愛がある意味で特権的なものになっているからであろう。すなわち,第1に,恋愛は(おそらく家族関係と並んで)「かけがえのない」ものの代表とされている。第2に,それは,そのかけがえのなさに見合うだけの深さで,そこに関与する当事者が何者であるのかを問うてくるように感じられている。第3に,それは選択的なものと見なされており,そのことと裏腹に,いつ解消されるかわからないという不安を常にともなっている。血縁で結ばれた(と信じられている)家族や親族の場合とは,その点でやや異なっている(もちろん家族も選択的な関係として捉えられる傾向が強まってきているが)。かけがえのなさと自身のアイデンティティへの問いが関係の儚さによって強められているために,恋愛は倫理の問題に敏感な局面となる。
浅野智彦 (2013). 「若者」とは誰か:アイデンティティの30年 河出書房新社 pp.214
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