ここで注意すべきは,一卵性双生児は,一方の子が自閉症であればもう一方の子も必ず自閉症である(あるいは自閉症になる運命にある)のではないということだ。高い一致率が意味するのは,一卵性双生児の双子が同じ環境に置かれたならば,同じように成長する確率が高いということだ。言い換えると,このような強い遺伝子的影響も,環境の役割を完全に打ち消すものではなく,環境を変えれば,その子が自閉症に罹るリスクは減るだろうということである。この場合は,誕生時から別々の家で暮らす一卵性双生児の事例を研究すればよいことになる……。だが,そのような事例は稀であり,また研究対象にするには注意が必要である(完全に別々に暮らしていない場合や,きわめて似通った家族と暮らしている場合などがある)。そのような研究から確たる結論を導き出すには,統計データが少なすぎるのだ。
ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.17-18
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