1998年,査読制の医学雑誌『ランセット』に掲載された論文は,ワクチン的には科学的裏付けがあると主張した。その論文は,新三種混合ワクチン(MMRワクチン)の予防接種と自閉症との関連を示唆したのである。調合物に含まれるワクチン株の影響により,腸に炎症が生じ,そこから神経に有毒な物質が血液に流れ込んで,神経系の発達が止まると説明していた。しかし,その後の多くの研究により,この論文の内容は否定された。そして主要執筆者のアンドリュー・ウェイクフィールドは,競合するワクチンの特許をもっていたことが明らかになり,さらには自身の研究データを改ざんしていたことも判明した。最終的には,2004年に13人の執筆者のうち10人がこの論文を撤回し,「論文の内容の一部は(……)誤りであった」と認めた。2010年に『ランセット』は,この論文を「記録から完全に消す」ことを決めた。
ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.59
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