綜藝種智院の特色として次の4点がある。第1に,教育のためには,例えば寺に近いという良い立地条件と自然環境の優れた場所を用意したこと。第2に,儒教,仏教,道徳を教える総合教育であること。すなわち,仏教だけを排他的に教えることはなかったのである。第3に,入学する人を庶民にまで広げたこと。第4に,先生・生徒に給費を支給して,職なくして学問なし,の精神を尊重した。独善的な教育をせず,しかもかなり平等性に富む教育機関であったことを暗示させる特色であるが,これらは空海の教育論の発露とみなしてよい。
綜藝種智院はおよそ20年間の存在期間にすぎず,空海の没後10年で閉鎖に至る。主として資金不足がその理由とされているが,真言宗の教義を伝えていくための伝法組織になってしまったから閉鎖に至ったという説もある。すなわち,真言宗を教えてそれを布教することになる僧侶の養成が中心となってしまったのである。短期間しか存在しなかった学校であるが,宗教(すなわち仏教)と教育の関係を理解する上で,しかも私学の意義と限界を知る上で,綜藝種智院は貴重な教育機関だったのである。
橘木俊詔 (2013). 宗教と学校 河出書房新社 pp.33
(引用者注:京都にある種智院大学はこの教育機関から名前をとっている)
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