満足度を測る理想的な方法は,快と不快の(喜びと苦しみの)体験を差し引きすることですが,満足度を自分で判断せよと言われたとき,人はあきらかに,単純な引き算とは別のことをします。回答者たちにネガティブな(不愉快な)体験あるいはポジティブな(快い)体験を3つずつ思い出させるという,ひとつの実験がありました。一方の条件では,その体験は最近の出来事でなければならず,もう一方の条件では,5年前のことを思い出すよう指示される。そしてその後,全般的な生活への満足度を問われるというものです。
その結果,最近のネガティブな出来事を考えさせられた人たちは,最近のポジティブな出来事を考えた人々にくらべて,満足度が低いことがわかりました。ところが,昔のネガティブな出来事を考えた人は,昔のポジティブな出来事を考えた人にくらべて,自分は幸せだと申告した比率が高かったというのです。
この結果を読み解く鍵は「判断の枠組み」にあります。最近の出来事を考えた人たちは,それらを現在の生活状態の総括に含めているため,ポジティブな出来事は喜びをもたらし,ネガティブな出来事は憂鬱をもたらす。一方,遠い過去の出来事を思い出した人々は,それらを現在の生活との比較に使います。そのため,過去のポジティブな出来事だけを考えた人は,現在の状態を少々不本意に感じ,逆に過去のいやな出来事を思い出した人にとっては,今の生活が急に良いものに思えてくるのです。
ダニエル・ネトル 山岡万里子(訳) (2007). 目からウロコの幸福学 オープンナレッジ pp.48-49
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