ハイテク素材ゴアテックスの製造・販売を行なってきたビル・ゴアは,世界で最も成功した企業経営者のひとりだ。ゴアテックスの生産量を増やすとき,彼は既存の製造設備を拡大するのではなく,工場を新設する道を選んだ。どれも従業員150人程度の工場だ。それがゴアの成功の秘訣だったのではないかと私はにらんでいる。工場の規模をそこまでに抑えることで,組織内に序列関係を導入したり,管理部門をつくったりする手間を省いているのだ。個人どうしの関係が中心になるため,おたがいへの義務感が生まれ,従業員どうしは競いあうのではなく協力するようになる。
軍隊の編成にもこのルールが生きている。近代的な軍隊では,最小の独立部隊は中隊だ。中隊はふつう先頭小隊三個と司令部,支援部隊で構成され,ひとつの戦闘小隊は30〜40人の兵士が所属するから,中隊の人数は合わせて130〜150人となる。共和国時代の古代ローマ軍も,基本部隊である歩兵中隊はおよそ130人編成だった。
学問の世界も同じこと。サセックス大学教育学部のトニー・ビーチャーが理系・文系の12分野を対象に調べたところ,研究者どうしが注目しあえるのは,100〜200人の規模であることがわかった。研究者の数がそれより多くなると,その学問分野はいくつかの領域に分裂する傾向にあるという。
ロビン・ダンバー 藤井留美(訳) (2011). 友達の数は何人?:ダンバー数とつながりの進化心理学 インターシフト pp.24
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