実生活での勇敢な行動を,進化論の視点から探る研究も行なわれている。そのひとつが,アメリカのカーネギー・メダルの過去の受賞記録を調べたものだ。カーネギー・メダルとは,緊急事態に際して勇敢なふるまいを見せた民間人に贈られるものだが,記録を分析すると興味深いパターンが浮かびあがってきた。男性受賞者が救出した(あるいは救出しようとした)のは若い女性が多く,女性受賞者が救ったのは血縁関係にある子どもだったのだ。言いかえれば,女性はわが子を生かすため,男性は子づくりのチャンスを増やすためにわが身を危険にさらしたということになる。やはり私の学生だったミナ・ライオンズは,さまざまな救出劇を報じたイギリスの新聞記事を分析した。すると救出者はほぼ全員が男性だが,社会的地位には偏りがあった。ヒーローになるのは裕福な男性ではなく,社会経済的に下層に属する男性なのである。ライオンズはその理由として,ヒーローになることで市場価値が高まり,伴侶を見つけやすくなるからではないかと推測している。
ロビン・ダンバー 藤井留美(訳) (2011). 友達の数は何人?:ダンバー数とつながりの進化心理学 インターシフト pp.97
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