マンモスの数が激減したのは,やはり生息に適した環境が狭まったせいだろう。さらにここから人類も関わってくる。現生人類は,7万年前にはじめてアフリカを出てからというもの,ずっとマンモスを狩ってきた。ノゲス=ブラーボらは保全生物学にもとづいた数学モデルを使って,狩猟方法や人口密度ごとにマンモスの狩猟圧に対する感受性を推計した。それによると,マンモスの生息数がいちばん多かった4万〜2万年前にマンモスを絶滅させるには,18か月ごとに人口ひとり当たり1頭以上を殺さなくてはならなかった。しかし時代が下って6000年前ごろにはマンモスの数が激減していて,200年ごとにひとり当たり1頭以下でマンモスは絶滅した計算になる。つまりほんのときたましとめただけでも,マンモスを地上から消すには充分だったということだ。
マンモス狩りが盛んだったことをうかがわせる考古学的な証拠もある。ウクライナにある2万〜1万5000年前の人類の居住跡からは,建材として使われたおびただしい数のマンモスの骨が出土している。テントの重石がわりという単純な用途もあるが,メジリチで見つかった4つの小屋は,マンモス95頭分脚の骨,下あご,頭骨,牙を積みあげたものだった。
個体数が多かったときは人類による狩猟圧をなんなく吸収できたマンモスだが,気候が変動して数が減ったことで,圧力をはねかえせなくなった。つまり狩猟圧がどんなに小さくても,それで種が絶滅に追いやられる可能性はあるということだ。気候温暖化が進みつつあり,多くの種が危機的状況にある今日,マンモスの前例はとても切実である。
ロビン・ダンバー 藤井留美(訳) (2011). 友達の数は何人?:ダンバー数とつながりの進化心理学 インターシフト pp.143
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