日本人・日本社会・日本文化が特殊独特だという信念は一体どこから来たのだろうか。私たちにとって,この疑問は軽いものではない。いろいろな試行錯誤のあと,私たちがたどりついたひとつの結論は,いわゆる「日本人論」と呼ばれる文献群である。よくよく検討してみると,つぎつぎに世に出される「日本人論」のほとんどは,日本人がどんなに特殊独特であるかを強調する,という点で,驚くほど似かよっている。この視点から見ると,「日本人」は断然「日本人」であり,そんな前提に疑問をさしはさむこと自体,おかしいにちがいない。事実,『タテ社会の人間関係』『「甘え」の構造』『ジャパン・アズ・ナンバーワン』『ザ・ジャパニーズ』など,ここ十数年の日本人論のベストセラーは,すべて「日本人特殊独特説」そのものである。力点の置き方に違いはあっても,これらの日本人論はいくつかの点で根本的には同じ内容の主張を繰り返してきた。
杉本良夫&ロス・マオア (1995). 日本人論の方程式 筑摩書房 p.25
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