建設的なけんかをする人の良いところは,互いにたいして愛情と敬意をもっていることだ。簡単に言えば,2人は愛しあい,好きあっている。そして議論をしているとき,この感情は2つの重要な役割を果たす。ひとつは議論の限度をわきまえていることだ。意見の表明や議論はエスカレートすると,たんなる解決の場から,相手を断罪することが第一の目的である市街戦へと化してしまうが,このタイプの人はこの不可侵のラインの内側にとどまっているのだ。最近の調査では,戦いでひどく傷ついたり傷つきそうになって争いをやめたいと思ったときには,男女共に特別のサインを発することがわかっている。男性の場合には,哀れっぽい声を出したり,自己弁護をしたり,なんとか撤退しようとしたりする。女性の場合は,寂しさと恐れの表明だ。こうしたサインが無視されると,傷ついたパートナーはしばしば腹を立て,けんかはコントロールがきかなくなる。建設的なけんかをする人は,こうした警告サインのぎりぎりまで議論をするため,2人ともフラストレーションや腹立ちを存分に話すことができる。それでいていったんこうしたサインがあらわれれば,攻撃している側は無意識のうちに危険を感じとり,後退して相手が優雅に撤退する道を開く。
建設的なけんかをする人の第2の特徴もまた,互いにたいする愛情から出ている。議論で重要なのは勝つことだ。建設的なけんかをする人にとってもこれは同様だが,同じように重要なのは,いま2人の幸福を阻害しているものをなんとか早く終わらせたいという気持ちだ。オランダの心理学者キャス・シャープの研究によると,この気持ちが,建設的なけんかをする夫婦と他の夫婦との違いだという。白熱した議論の最中でさえ,2人は譲歩や妥協のかたちで,互いに和解の糸口を与えあっている。
J.ベルスキー・J.ケリー 安次嶺佳子 (1995). 子供をもつと夫婦に何が起こるか 草思社 pp.198-199
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