ベイズのシステムは,概念としては単純だ。客観的な情報を得て自分の意見を変えるだけのことで,つまり「当初の考え(最初のボールが落ちた場所に関する推測)+最近得られた客観的なデータ(直近のボールが最初のボールの左側に落ちたか右側に落ちたか)=より正確な新たな考え」,と表すことができる。やがて,この手法の各部分には名前がつけられ,当初情報がない時点で考えた確率を「事前確率」,観察された客観データに基づく仮説の確率を「尤度」,客観データによって更新された確率を「事後確率」と呼ぶようになった。このシステムを使って再計算をする場合には,すでに得られている事後確率が次回の事前確率になる。これは進化するシステムで,新たな情報が加わるたびに確信へと近づいていく。一言でいうと,
事後確率は,事前確率と尤度の積に比例する
のである(もっと専門的な統計学者の用語では,尤度というのは観察されてすでに値が定まっているデータを前提とした競合する仮説の確率を示す。だが,南アフリカで統計の歴史を研究しているアンドリュー・デールによれば,「いささか乱暴な言い方をすれば,尤度とは,ベイズの定理を巡る議論から事前確率を取り除いたときに残るものである」こうなると,ことはかなり単純だ)。
シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.29-30
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