フィッシャーはベイズの法則を激しく非難し,そんなものは「光も通らないジャングル」であって,「誤り,おそらくは,数学界がこれほど深く関わってしまったただ1つの誤りだ」とした。さらに,事前確率を等しいとすることは「とんでもない欺瞞」だと論じ,「わたしには,逆確率の理論がまちがいの上に組み立てられており,丸ごと却下すべきだという確信がある」と高らかに宣言した。学識豊かな統計学者のアンデルス・ハルトはやんわりと,「フィッシャーの傲慢な文体」を嘆いている。フィッシャーの業績にベイズに通じる要素が多々あったにもかかわらず,本人は何十年もベイズと戦って,ついにベイズを立派な統計学者が口にすべきでないタブーにしおおせた。しかも,口論を起こそうという構えを常に崩さなかったから,意見が対立する人間がフィッシャーと議論をするのはかなり困難だった。ベイズ派以外の人からも,フィッシャーは「絶対に敵と合意したくない一心で」自分の立場を決めることがある,と言われるほどだったのだ。
シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.100
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