日本軍の暗号担当は,主要暗号であるJN-25を使うにあたって,メッセージを5桁ずつブロックにして送信した。それぞれのブロックがJN-25のコードブックから引いてきた5桁の数字からなるコードと「添加物」と呼ばれるランダムな5桁の数字を加えたものであることは,イギリスの数学者たちにもわかっていた。したがってイギリスの暗号分析官はこの手順を逆に行えばよいはずだが,肝心のJNコードや添加物が載っているコードブックは手元にない。そこで数学者たちは,まず添加物の5桁の数字と思われるものを絞り込むことにした。そのうえで,暗号の専門家ではない一般人やイギリス海軍婦人部隊からなるチームが標準化された手法で,添加物である可能性がもっとも高い数字を迅速かつ客観的に確認しなければならなかった。特定の添加物が使われているかどうかを判断するには,解読されたコードがその添加物を使って作られている可能性,つまり確率を調べればよい。チームのメンバーは信念の指標として,推測した各コードに,それまでに解読したメッセージにそのコードがどれくらい頻繁に現れたかに応じてベイズ流の確率を割りふった。そのうえで,可能性がいちばん高いブロックや境界線上のブロックや特に重要なブロックをさらに調べていくのだ。
シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.159
PR