結局のところ,フィッシャーは道化を演じただけだった。コーンフィールドが冷淡に指摘したように「[批判を受けて]ひっきりなしに仮説が変更されていってまじめに考慮することが難しくなったときに……1つの結論に達した」のである。観察されたデータの関連についての実際的な説明がたった1つしか見つからないのであれば,科学者たちはその原因を見つけたといえるはずだ。これに対して,ほかのやり方でも説明できるのであれば,原因はまだ見つかっていないことになる。コーンフィールドはこうして,その先の喫煙と肺がんの研究のためのロードマップを明らかにしてみせた。
この時点で,歴史学専攻だったコーンフィールドは,アメリカでもっとも影響力の強い医療統計学者となっていた。1964年にアメリカ軍医総監が,「たばこの喫煙と男性の肺がんとは原因という形で結びついている」と結論したときに引き合いに出されたのはコーンフィールドの業績だった。実験ではない研究が,喫煙と肺がんとの関係を確認するのに役だったのだ。コーンフィールドは,ラプラスが「過去の出来事から得られた,原因の確率と未来の出来事の確率」と呼んだベイズの法則の力を借りて,症例対照研究を通して汚染や暴露と疾病の結びつきの強さを評価することの正当性を理論的に裏付けた。コーンフィールドのおかげで,今や症例対照研究は疫学者が慢性病の原因を突きとめる際の主要なツールとなっている。
シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.212-213
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