2002年にはベイズが,ノーベル賞を丸々1つとまではいかないものの,一部勝ち取った。2002年のノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンは,ノーベル賞の対象になる前に死去した心理学者のエイモス・トベルスキーとともに,人間が合理的なベイズ推定の手順にしたがって意思決定するわけではないことを示した。調査票の質問に答えるときにはその言い回しに影響されるし,医師たちが癌の患者に手術を行うか放射線治療にするかを決める時も,治療の選択を死亡率と関連付けるかそれとも生存率と関連付けるかで判断が違ってくるのだ。おおかたの人はトベルスキーを哲学的ベイズ派と見ていたが,本人は研究成果を頻度主義的な手法でまとめていた。デューク大学のジェームズ・O・バーガーがトベルスキーになぜかと尋ねると,そのほうが都合がよかったから,という答えが返ってきたという。1970年代にはベイズ派の研究を発表することはきわめて難しかったので,「彼は楽な道を選んだんだ」とバーガーは述べている。
シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.423
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